- アレルギー
- 2024.10.03
新しい食物アレルギー~消化管アレルギーって知ってるかい?~
はじめに
消化管アレルギーという病気を聞いたことありますか?
その病気が認知されるようになってきたのは2000年代頃でした。最初は新生児や乳児を扱う診療領域が中心でしたが、最近は成人診療科においても好酸球性消化管疾患が消化管アレルギーとして分類されています。
その名の通り、消化器症状(嘔吐、下痢、血便、体重増加不良など)を呈するアレルギー疾患の総称です。
IgE抗体に依存するいわゆる即時型の食物アレルギー、IgEに依存しない(非IgE依存性の)新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症、混合性の好酸球性消化管疾患に分けられます。
新生児から成人まで幅広い年齢層で見られるこの消化管アレルギー、今回はこの20年ほどで急激に認知が広がってきている消化管アレルギーの中でも特に新生児~乳幼児期にフォーカスした新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症、さらにその中の食物蛋白誘発胃腸炎症候群(Food Protein Induced Enterocolitis Syndrome ; FPIES エフパイスと読みます)について解説します。
消化管アレルギーの細かい分類は左記のようになりますが、現状外来で私たちが消化管アレルギーと言うと、FPIESのことを指していることが多いと思います。
消化管アレルギーの歴史
欧米では以前よりFPIES、食物蛋白誘発アレルギー性結腸直腸炎(FPIAP)、食物蛋白誘発腸炎(FPE)という概念が存在していました。
日本では、新生児期から乳児期に主にミルクを原因として嘔吐や血便、下痢を生じる例が2000年頃から増えてきました。欧米とは臨床像が異なり、日本では新生児乳児消化管アレルギーという名前で、独自の疾患概念が広がっていました。
その後、我が国の臨床像の国際的な認知が進んだこともあり2018年に「新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症」として定義されました。
これは新生児乳児消化管アレルギーと同じ意味であり、この疾患には先ほど挙げたFPIES、FPIAP、FPEも含んでいます(上図参照)。
FPIESって?
さて今回解説するFPIESですが、定義としては「ある特定の食品を摂取した後に消化管に起こるIgE非依存性の過敏性反応を起こす疾患」、ということになります。
一般的にいう食物アレルギーはIgE依存性であり、FPIESとは区別して考えます。
FPIESでは原因食品を摂取してすぐには症状が出ません。大体1~4時間ほど経ってから急に大量に吐き、その後軟便・下痢便(場合によっては血便も)が見られます。程度が軽いと2~3回吐いて、そのあとはすっきり元気ということもあります。
症状が似ていることから、胃腸炎と誤診されることもあります。見分け方としては、胃腸炎は症状が数日続くことが多いですが、FPIESは数時間で症状がなくなります。またFPIESはなんといってもアレルギーですので、原因食品を摂取すれば繰り返し嘔吐します。
反復性嘔吐が見られる場合は、その数時間前に摂取した食事内容を書き出してみましょう。吐く前に毎回同じものを摂取していたとすれば、もしかしたらその食物によるアレルギー症状かもしれません。
FPIESはどうやって診断する?
2017年に国際ガイドラインが発表され、以下のような診断基準が示されています。
診断はガイドラインに則り臨床症状・経過からされることが多いですが、判断に迷う場合は除去試験と負荷試験(「避ければ症状が消失するかどうか、食べれば症状が出るかどうか」を確認する検査)を行います。この点はIgE依存性の食物アレルギーと同様です。
一方で、IgE依存性の普通の食物アレルギーとは違って血液検査やプリックテストといった特異的IgE抗体の検査は意味を成しません。
FPIESの分類
少しマニアックな話になりますが、FPIESはさらに2つに分類されます。
acute FPIES(急性FPIES)とchronic FPIES(慢性FPIES)です。
acuteはいわゆる典型的なFPIESのタイプで、分かりやすいです。
原因食物摂取1~4時間後に頻回嘔吐を認め、その後5時間くらいから下痢、ときに血便や不活発、低血圧を伴うようになります。
間欠的に少量を摂取している場合に発症しやすく、離乳食を摂取する乳児にみられることが多いです。鶏卵や小麦などの固形物による報告が急増しています。
一方chronicは日本や韓国で患者数が多いようで、嘔吐・下痢・発育不全(体重増加不良)が見られ、気疲れにくいことが多いです。
日常的な摂取で発症することが多く、粉ミルクや大豆乳など非固形物を与えられる4か月未満の報告が多いです。
acute FPIESはたまに摂取することで急激にダメージをくらい、chronic FPIESは連日摂取することでじわじわ体を蝕むイメージです。
以前の日本では乳児早期のミルクによる慢性FPIESが多かったですが、近年は乳児期中期~後期発症の固形物による急性FPIESが増えています。
FPIESの原因食品は?
原因食品は国や地域によって異なりますが、国際的には乳、魚、鶏卵、穀物、大豆の順になっています。
日本に限ってみると、鶏卵(42%)、乳(23%)、大豆(11%)の順です。
日本では鶏卵(特に卵黄)によるFPIESの報告が急増しています。
また成人のみを対象とした調査では甲殻類が最も多かったと報告されています。
参考までに各国の原因トップ3
ちなみにこのFPIESの原因食品は各国の離乳食事情によるようです。
米を初めて食べる離乳食の1つに推奨しているオーストラリアでは米のFPIESが、大豆由来、牛乳由来の人工乳を与えるアメリカでは大豆や牛乳のFPIESが、そして魚を用いることが多いヨーロッパ、地中海沿岸地域は魚が原因として多く報告されています。
一方、アメリカやオーストラリアでは離乳食に魚を用いられることは少なく、これらの地域での原因にはなりにくいです。
要するに初期に摂取される食物がよりFPIESの原因になりやすいと考えられ、導入のタイミングが鍵になると考えられます。
FPIESにはどうやって対応する(治療)?
治療は急性期治療と長期管理に分かれます。
まず急性期の治療です。
診断がついたら長期管理にうつります。即時型の食物アレルギーの場合は閾値を確認して、症状の出ない範囲で積極的に摂取を進めることが推奨されています。しかしFPIESでは微量の摂取継続が免疫寛容を誘導する根拠が乏しいため、完全除去を行うのが一般的です。しばらく除去を継続して、次の項でお示ししますそれぞれの食品における寛解時期の目安を参考に、負荷試験などを行って耐性獲得の有無を確認していきます。
FPIESは治るのか?
FPIESの予後は一般的に良好と考えられています。
寛解率や時期は原因食品によって変わりますが、全食品での寛解率は60~85%、時期は2歳~5歳と報告されています。
図からも分かるように、鶏卵はおよそ18か月~63か月頃に寛解することが多いです。
加熱卵に対しては77%の患者が平均38.3か月で耐性を獲得したと報告されています。
乳に関しては、さらに寛解までの期間が短い傾向にありそうです。
2歳までに50%以上、3歳までに大半が寛解したとする報告もあります。
一方、魚は最も耐性を獲得しにくく、耐性獲得年齢も高くなっています。
魚を食事として摂取しだすのが比較的遅いことと、症状が強いため再投与をためらって大きくなるまで食べずに過ごしてしまっていることが理由として考察されていました。
FPIESは予防できる?
IgE依存性の食物アレルギーは経皮感作によって引き起こされることが分かっており、アトピー性皮膚炎との関連が強く、皮膚のバリア機能の強化によって予防しうることが分かってきています。
一方でFPIESではアトピー性皮膚炎の患者の合併は少なく、その発症に経皮感作が関与している可能性は低いと考えられます。
じゃあ予防はできないのかというと、諦めるのはまだ早いです。
FPIESの発症予防を考えるうえで、非常に興味深いデータがあります。
神奈川県にある市立病院の先生がまとめられた報告です。
以前よりFPIESでは初回の抗原摂取で無症状でも、間隔をあけて複数回摂取したときに発症することが多いと言われています。発症前には、発症時と同量程度の原因食物を摂取できていた事例もあります。
今回の報告では、卵黄FPIESを発症した全例で週に数回程度の定期的な摂取はされておらず、11日~3週間程度の間隔を空けて摂取されていました。
つまり、卵黄の摂取間隔の長さが発症に影響を与えている可能性があるということです。
臨床的にも免疫寛容の誘導維持には週に数回程度の定期摂取が推奨されており、あまり間隔をあけずに食べ続けることで予防ができるかもしれません。
わが国で、同じ離乳初期から摂取を開始する米や大豆、小麦に比べて鶏卵のFPIESの増加が目立つのは、穀物や大豆は主食として定期的に摂取されることが多いからとも考えられます。
動物研究では、間欠的な抗原暴露よりも毎日の反復暴露により、制御性T細胞の抹消組織での発現が促進され、抗原に対する感作が予防される可能性が示唆されています。
離乳食で1回食べ始めたら、なるべく間隔をあけずに繰り返し食べ続けた方がいいでしょう。
FPIESの発症機序はよく分かっていません。FPIES患者の多くは、複数回原因食品を摂取した後に発症していることから、消化管暴露による感作(経腸管感作)が起こり発症するのではないかと考えられています。またその免疫学的機序も不明ですが、獲得免疫や自然免疫、神経伝達物質やホルモンの関与が示唆されています。
またFPIESには好発時期があり、その時期にFPIESになりやすい食物を摂取することが発症リスクになっていると考えられています。
しかしひとたび発症しても数年経てば自然寛解している、それは感作が消失するからなのか、それとも感作は残っているけど反応しなくなるからなのか、その時消化管の中でどんな変化が起きているのか、そもそもFPIESを発症しやすい個体の特徴はあるのか、などこういった点の追及がFPIESの病態解明につながるかもしれません。
まとめ
最近急速に増えてきているFPIESについてまとめました。
おなかの風邪として放置されている例も散見されます。繰り返し嘔吐症状がみられる場合、体重がなかなか増えてこない場合など、気になる症状があればご相談ください。
また自宅で摂取していて急に発症してきた場合も当院までご連絡ください。状態によって点滴をしたり、大きな病院への紹介もさせていただきます。
消化管アレルギーはいわゆる一般的な食物アレルギーと違って、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。しかし世界中から日々新しい知見が報告されています。
病態解明や適切な管理の仕方など知るべきことはたくさんありますが、当院では常に最新の情報にアップデートしながら日々の診療にフィードバックしていきたいと思います。
参考文献
日本小児臨床アレルギー学会誌 21巻3号 314-318 2023
日本小児アレルギー学会誌 2023;37:156-162
Int Arch Allergy Immunol 2023;184:567-575
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小児科診療 2022 Vol.85 No.10 1283-1288
小児科 Vol.64 No.4 2023 366-372