- アレルギー
- 2025.01.27
アレルギー検査お断り

プロローグ
昨今アレルギー疾患は国民病と言われるほどまでに増加を続けており、日本国民の2人に1人は何らかのアレルギー疾患を持っていると言われています。そういった時代背景もあり、一般の人々のアレルギーへの関心は高まっていると思います。
加えて当院はアレルギー科を標榜していることもあり、アレルギーに関する質問・相談をよく受けます。
その中でも多いのが「アレルギー検査の相談」です。
年中鼻水が止まりません、春になると目の痒みがひどいです、喘息の原因を知りたいです、などなど。
アレルギー検査を希望される理由は人それぞれ。いろんな理由があって当然です。
そんな中で今回の表題が「アレルギー検査お断り」。
えっ、どういうこと? 検査せーへんの??
戸惑われた方もおられるかもしれません。
安心してください、ちゃんと検査しますよ。
ただしなんでもかんでも、というわけではありません。
ということで、今回は私のアレルギー専門医としての小さなプライドのお話です。
(正しくないことはしない、したくないっていう、ね)
アレルギー検査に関して正しい知識を持ってほしい
食物アレルギー診療をきちんと理解してほしい
"食べる"ということの意味を今一度考えてほしい
そんな私のこだわりにしばらくお付き合いいただけると幸いです。
(若干暑苦しくなります、ご注意ください。)
アレルギー検査で分かること
さて、皆さんはアレルギー検査に何を求められますか?
鼻炎の原因を知りたい、春先に毎回鼻水くしゃみが出るけどこれはスギ花粉によるもの?、犬を飼いだしてから目の痒みが治まらないけど、いぬアレルギーがあるのかな?
やはり症状の原因検索としてアレルギー検査を希望されることが多いですね。
しかし、時として看過できないものが・・・。
"食べたことは無いけど食物アレルギーがあるかどうか知りたいのでアレルギー検査を受けたいです"
!!!!!
もしかしてアレルギー検査で食物アレルギーが診断できるとお考えですか?
あまつさえ、検査が陽性なら除去しようとしていませんか??
ちょっとお待ちください。
検査をする前に、一度私の話を聞いてください。
別ページでも述べていますが、アレルギー検査単独で食物アレルギーは診断できません*1。
大前提として、これはしっかりと理解してほしいと思います。
アレルギー検査は、あくまでも感作と言ってアレルギーを起こす原因となるもの(特異的IgE抗体といいます)が体内にできているかどうかをみているに過ぎません。IgE抗体があるだけでは必ずしもアレルギーとは言えません。
当然、検査が陽性でも食べられることは往々にしてあります。検査は陽性なのに実際には症状が出ない状態を偽陽性と呼びます。100%の信頼度を誇る検査はありませんので、すべての検査は偽陽性や逆に偽陰性(検査陰性なのに、実際には症状がある)の可能性が存在します。
検査が陽性なら、注意をしながら食べていかなければならないのは事実ですが、それでもやはりそれだけでは診断はできません。
食物アレルギーの診断
食物アレルギーを最も高精度に診断できるのは食物経口負荷試験です。
もしくは、再現性のある症状(食べれば毎回症状が出るということ)+アレルギー検査陽性なら負荷試験は省略して診断してもよいとされています。
いずれにしても、「実際に食べて症状が出る」ということが診断のうえでとても大切になってきます。
食物アレルギー診療においてアレルギー検査は症状ありきだと思います。
ですので、基本的に当院では繰り返し症状が出たことが無い方に関しては、食物アレルギーの原因検索のためのアレルギー検査はお断りしています。
突き詰めれば食物アレルギーを正しく診断したいということなんですが、ではなぜ正しく診断することにこだわるのか。
食物アレルギーを正しく診断することの意義
少しおさらいしてみましょう。
症状が無い状態でのアレルギー検査は偽陽性のリスクをはらみます。
つまり本当はアレルギーではないのにアレルギーであると誤った診断がされ、本当は避ける必要が無いのに不必要な食物除去につながる可能性があります。
食物除去が及ぼす悪影響としては、栄養不足、QOL(Quality Of Life;生活の質)の低下、心理的ストレス、将来的な摂食障害の助長などが挙げられます。
この中でも私が特に憂慮するのがQOLの低下です。
「食べる」という行為は本来とても楽しいもののはずです。
家族や友達と同じ食卓を囲って食事を摂るというのは、人と人との繋がりや絆、団欒を生むものであり、さらに言えば生きる楽しみでもあると思います。
ところが、食物アレルギーの診断のもと保育園や幼稚園で除去が指示されると・・・
昼食時やおやつの時、誤食のリスクを避けるため別テーブルで一人だけポツンとみんなと違うものを食べる、ということもありえます。
家でも大変です。
アレルギーを起こさせないために、その子の食事はもちろん、アレルギーではない他の家族が食べるものにも気を配らなくてはなりません。外食、中食もままならず、精神的に疲労困憊してしまうかもしれません。
これが正しい診断に基づいて行われているのであればまだ納得はできます。しかし、それが誤った診断によるものだったら・・・
だからこそ食物アレルギーの診断は必ず慎重に、そして正確に行われなければなりません。
「怪しいんだからとりあえず除去しとこうよ」なんていう安直な考えは許されません。
判断に迷うときは、我々専門医に遠慮なく相談してください。
また医療者の知識不足で誤った判断のもと除去が指示されているケースもあります。
医療者が正しい知識を持つのは当然のこと、さらにはしっかり患者さんから話を聞き、正しい診断に努めなければなりません。
なんとなくな対応は決して許されない、安易な除去がその子の人生を狂わせてしまうかもしれない、ということを食物アレルギーに関わる人は肝に銘じるべきだと思っています。
食べることは楽しいことであり、可能な限りそれを満喫してもらいたい。
そんな当たり前のことをみんなで共有できるようにしたい、ただそれだけです。
今回のブログを通して食物アレルギー診療のことをよりよく知ってもらえる機会になれば嬉しいです。
あっ、表題の「アレルギー検査お断り」は少々不正確でしたね。
「"不必要な"アレルギー検査お断り」に修正させていただきます。
食物アレルギー診療の考え方
現在の食物アレルギー診療の基本的な考え方は
「正確な診断に基づいた必要最低限の除去」です。
以前は疑わしきは除去という考えがありましたが、2010年代からアレルギーがあっても、症状が出ない範囲で積極的に食べていこうと考え方にパラダイムシフトが起こっています。これは多くの研究の結果、除去よりも少量でもいいので食べ続けた方が、最終的に食物アレルギーを克服できるということが分かってきたからです。
ごく微量でアナフィラキシーを起こす方はおられますし、そういった方が完全除去をするのは仕方がないことですが、少しでも食べられる方はしっかり摂取を続けるのが良さそうです。ましてや食物アレルギーが無いのであれば言わずもがなです。
おまけ
アレルギーのスクリーニングの是非について
アレルギー検査の中で多項目を同時に見ることのできる検査があります。View39やMAST48、ドロップスクリーンなどですね。
一度の検査でたくさんの項目をチェックできるのでお得感はありますが、個人的にはやはり気になります。
何がって?
それは、必要のない項目まで見てしまっている可能性があるということです。
鶏卵アレルギーの疑いがあるなら、鶏卵の項目だけを見ればいいわけで、他の乳や小麦やえびなんかは見る必要がありません。下手に見てしまって、万が一陽性で出てしまったら皆さん気なってしまいませんか?今までそんなに意識していなかったのに、陽性と分かると摂取をためらいませんか??
このような一気に多項目を見る検査をスクリーニング検査と言います。スクリーニングとは、特定の疾患や健康問題の有無を早期に発見するために行われる検査や評価のプロセスを指します。これにより、まだ症状が表れていない段階で疾患を発見し早期の治療や予防措置を可能にするとされています。
食物アレルギー診療においては、何かを食べると症状が出るんだけど、その原因が全く分からないといったときに、原因究明のとっかかりのために実施されることがあります。
スクリーニング検査で注意すべきことは、食物アレルギー診療ガイドライン2021にも明記されていますが、データの定量性は十分ではなく、あくまでスクリーニング検査として位置づけ、食物アレルギーの診断や臨床経過の評価に直接用いることは推奨できないとされています。
食物アレルギーを疑う場合、お話を聞けば怪しい食材はある程度絞れるはずです。そうして原因食材を絞り込んで、ピンポイントでアレルギー検査を行うのが正しい食物アレルギー診療だと思います。
ぶっちゃけスクリーニング検査みたいないらん検査をして、思ってもいないところで陽性に出られると正直我々も困るんです。「いやこれは検査で陽性に出ていますが、実際には食べられているので、偽陽性ということになり~」などといちいち説明するのは億劫です。それなら最初からしっかり問診をして必要な項目だけをチェックする方が、断然すっきりします。
安易にスクリーニング検査を選択するのは、医師の怠惰だと思っています。
だから皆さんも検査を取られて「わぁ、たくさんの項目を見てくれてありがとう」などと喜んでいてはいけません。
スクリーニング検査はその性質から人間ドックなんかでやってもらうのがいいと思います。
最後まで偉そうな私の主張にお付き合いいただきありがとうございます。
こどもの食物アレルギーに強い思いがあって診療してるんやなとご理解いただき、温かく見守っていただけると幸いです。
これから食物アレルギーが心配でアレルギー検査を受けようと思っておられる方の一助になればいいなと思っています。
食物アレルギーに限らず、アレルギー疾患でお困りのことがあれば是非当院までご相談ください。暑苦しくならない程度にしっかり対応します。
補足
*1
現在、特異的IgE抗体検査ではコンポーネントといって、より食物アレルギーを正確に診断できる項目が保険収載されるようになってきています。特にピーナッツのAra h2、くるみのJug r1、カシューナッツのAna o3はかなり感度が高く、これらが陽性であれば負荷試験無しに食物アレルギーの診断になると言われています(特に小児でその傾向が強いようです)。
<参考文献>
食物アレルギー診療ガイドライン2021
J Allergy Clin Immunol Pract. 2025;1:176-184
J Allergy Clin Immunol Pract. 2017;5:1784-1786