- アレルギー
- 2025.07.11
アトピー性皮膚炎を理解しよう①

先日とあるメーカーさんに機会をいただき、社内研修会の講師をしてきました。
アトピー性皮膚炎に関する研修でしたが、是非このブログを読んでくださっている皆さんにも知っていただきたい内容でしたので、一部修正を加えて共有したいと思います。
今回からの一連のブログでは、「アトピー性皮膚炎を理解しよう」と題して、アレルギーに関する基礎的な内容やアトピー性皮膚炎に関するお話(なぜアトピーになるのか、なぜアトピーは痒いのか、痒みが及ぼす影響)、新しいアトピー性皮膚炎の治療などについて数回に分けてお話をしていきます。
【本日の内容】
・免疫とは
・アレルギーとは
・免疫とアレルギーの違い
・なぜアレルギーになるのか
・アレルギー疾患は増えている
・アレルギー疾患が増えているわけ
基礎的な内容が中心になります。
では早速見ていきましょう。
免疫とは
アレルギーを考えるうえで避けて通れないのが"免疫"という言葉。皆さんも聞かれたことはあると思います。ではこの免疫というのはいったい何なのでしょうか?
免疫は"疫を免れる"と書きます。疫とは疫病=感染症のことです。つまり様々な感染症を引き起こすウイルスや細菌、カビ、寄生虫から体を守るシステムのことを免疫と言います。
アメコミ風の画で解説です(あくまでも理解を手助けするためのざっくりとした説明です)。生成AIに作成してもらいました。全く使いこなせていません。遊びに使う程度です。もっとアカデミックなことに使うことができるようにしなければなりません。
門の前に屈強なアメリカンポリスが立ちふさがっています。このアメリカンポリスたちが免疫を担当する細胞です。アメリカンポリスたちは門の前に立って不審者が敷地内に侵入しないように見張り、侵入しようとする者がいれば排除します。このように泥棒や不審者(病原体)の侵入から、屋敷(体)を守る警護システムが免疫です。
アレルギーとは
ではアレルギーとは何でしょうか?
簡単に言うと、アレルギーは免疫の勘違いです。
先ほど述べたように、免疫は体にとって害を与える病原菌などに反応して体を守るシステムですが、アレルギーの場合は本来無害なもの(食べ物、花粉、ダニなど)を有害なものと勘違いして過剰に反応してしまう現象のことを言います。
再度アメコミ風に解説です。
- アメリカンポリス(免疫細胞)が外敵がいないか見張りをしています。
- そこへチラシ(人体にとって特に害はない)が飛んできました。
- アメリカンポリスはチラシを爆弾だと勘違いして慌てふためきます。
- 結果、単にゴミ箱に捨てればいいだけのチラシを親の仇のようにビリビリに破いてしまいます(過剰反応)。
免疫とアレルギーの違い
以上をまとめて正常な免疫反応とアレルギー反応の比較です。
「アレルギーは免疫の勘違い」
これは覚えておきましょう
なぜアレルギーになる?
免疫が勘違いしたものがアレルギーだとお話ししました。ではどういったことが免疫を勘違いさせやすくするのでしょう?
「02. 獲得免疫の偏り」「03. バリア機能異常」に関しては今回の一連のシリーズの中でお話していきます。
「04. その他の要因」については、また別の機会に詳しくお話します。
めちゃくちゃ簡単にかつ乱暴に言うと、「帝王切開で出生したアレルギー家系の一人っ子が湿疹を放置し完全ミルクで育ち、無駄に抗生剤を投与されている」と確率的にアレルギー発症しやすいかもしれません
アレルギー疾患は増えている
いまや国民の2人に1人が何らかのアレルギー疾患を有していると言われています。
では一昔前と比べると有病率や患者さんの数はどのように変化しているのでしょうか。
気管支喘息の有病率は、1978年:0.32% →→→ 2024年:3.31%(6歳時、文部科学省:学校保健統計調査)
花粉症の有病率は、1998年19.6%→→→2019年:42.5%(鼻アレルギーの全国調査)
アトピー性皮膚炎の患者数は、1987年22万人→→→2017年51万人(厚生労働省.平成29年患者調査の概況)
今までに食物アレルギーの症状かつ診断がある児の率は、1999年7.1%→→→2019年14.3%(アレルギー疾患に関する3歳児全都調査)
調査の種類はバラバラですが、有病率、患者数は全てのアレルギー疾患で増加傾向が見られます。
アレルギー疾患が増えているわけ
日本でアレルギー疾患が増えてきていることは分かりました。
でも、なぜ増えてきているのでしょう?? その問いの答えを考える前に1つ。
世界と比較した場合、日本のアレルギー有病率は高いのでしょうか。
ISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)という小児喘息やアレルギー疾患の有症率を調査する国際的な研究プロジェクトからの報告がありますので、それを見てみましょう。
日本とイギリス、ナイジェリア、インドネシアの4か国の比較です。
アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎の有病率を見てみると、おしなべて日本とイギリスで高く、ナイジェリア、インドネシアで低くなっています。
日本とイギリス / ナイジェリアとインドネシア
→→→つまり先進国 / 発展途上国の図式です。
どうも先進国でアレルギー疾患の有病率が高く、発展途上国で低いという傾向がありそうですね。果たしてこの傾向は正しいのでしょうか。それを紐解くひとつの仮説があります。
1989年に提唱された"衛生仮説 hygiene hypothesis"という考え方です。
この衛生仮説で発表されたデータをお示しします。
この表を見ると、お兄ちゃんやお姉ちゃんの数が増えるほど、アレルギー疾患の有病率が下がることが分かります。一方で弟や妹の数が増えてもそこまで有病率の低下は顕著ではありませんでした。
お兄ちゃん、お姉ちゃんがたくさんいる環境とはどういう環境でしょう?
お兄ちゃん、お姉ちゃんがたくさんいる環境
すなわち病原体がわんさかの環境です。
免疫とアレルギーは表裏一体です。
少し専門的な話になりますが、免疫に関わる(ばい菌をやっつける)細胞をTh1細胞、アレルギーに関わる細胞をTh2細胞と言います(Th1が頑張れば正常な免疫反応で病原菌をやっつける、Th2が頑張れば免疫の勘違いでアレルギー反応が起こる)。
このTh1細胞とTh2細胞は天秤のような関係で、常にバランスをとろうとします。つまりTh1サイドに荷重がかかればTh2サイドは軽くなります。
病原菌がたくさんの環境では免疫が頑張ってTh1細胞が優位な状況となります。その結果Th2細胞の働きが弱くなりアレルギーが発症しにくくなるのです。
逆に言えば、「過度に清潔な環境で育つとTh1<Th2の力関係となり、アレルギー疾患を発症しやすくなる」、これが衛生仮説の骨幹です。
ちなみに弟や妹がたくさんいても、その子はすでに数々の感染症を経験しているはずなので免疫にはあまり影響しませんし、アレルギーの発症率にも目立った変化は出てきません。
もちろん衛生仮説だけでアレルギー疾患が増えてきている理由をすべて説明できるわけではありません。しかしその理由を理論的に説明できる仮説の1つではあると思います。
先進諸国はおしなべて衛生環境が整備されています。
こういったきれいな環境で育つことが免疫を育てるために必要な病原体との接触の機会を減らし、アレルギー疾患の発生を助長しているとも考えられます。
誤解を恐れずに言えば、風邪をどんどんひいて免疫を鍛えていくことも必要なことなのかもしれません。
今回の内容はここまでです。
次回は「肌から始まるアレルギー、アトピー性皮膚炎の痒みの謎」についてお話をしたいと思います。
まとめ
アレルギーは免疫の勘違いで起こります。
アレルギー疾患の有病率・有病者数はこの数十年で飛躍的に増加しています。
過度にきれいな環境は免疫の発育を妨げ、アレルギーを助長する一因になるかもしれません。

