免疫療法

免疫療法ってご存じですか？

 

一般的に免疫療法というと、がんの治療をイメージされる方も多いかと思います。

最近で言うと2018年に本庶佑先生が、がんとの共存を目指した免疫療法の研究でノーベル医学生理学賞を受診されたのが、記憶に新しいところです。

 

 

ただ今回の免疫療法のお話は、がんではなくアレルギーに対するもので、アレルゲン免疫療法（以下、免疫療法）と呼ばれるものになります。

 

 

今までのアレルギー疾患の治療の基本は、「アレルゲンを除去すること」でした。また症状が強ければ、抗アレルギー剤を内服することもありましたが、いずれもアレルギー疾患の根本的な解決には至りませんでした。

一方で免疫療法は、アレルギー疾患の原因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲンに暴露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法となります。

つまり原因アレルゲンを積極的に摂取して体を慣らして、究極的にはアレルギー疾患を克服してしまおうという治療法です。既存の治療法が対症療法だったのに対して、免疫療法は根治を目指すというのが決定的な違いです。

（簡単に言うと、免疫の細胞にアレルゲンを何度も出会わせることで、最初は敵と思っていたものを悪者ではないんだと認識を変えさせる治療になります。）

 

参考までに免疫療法の機序

 

免疫療法はアレルゲンの投与経路により様々な種類があります。

・皮下（注射で真皮の下にある皮下組織に投与する方法）

・舌下（舌の下の粘膜組織から吸収する方法）

・経口（食べて腸管から吸収する方法）

・経皮（貼り薬の形で皮膚から吸収する方法）

 

研究段階のものから、実際に臨床の場で使用されているものまで様々です。

日本ではアレルギー性鼻炎に対する皮下免疫療法、舌下免疫療法が保険適応になっています。

 

 

今回ご紹介するのは"口腔粘膜"免疫療法という新しい手法です。経路としては、舌下免疫療法と似ています。

 

2023年11月にアメリカアレルギー・喘息・免疫学会の年次総会で発表されたもので、ピーナッツなど特定の食品にアレルギーを持つ人に対する治療用歯磨き粉の開発に向けた第１相試験の結果についてです。

現在日本でも研究として行われている経口免疫療法（食物アレルゲンを少しずつ量を増やしながら摂取する方法）にひと工夫加えたもので、免疫応答細胞がたくさん存在する口腔粘膜を通じた減感作を目指すものとなっています。

方法は１日１回ピーナッツ蛋白を含んだ特別な歯磨き粉で歯を磨くだけという極めて単純なもので、日常のルーティンを行いながらアレルギーの治療ができてしまうという一石二鳥的な治療になっています。

研究はピーナッツアレルギーのある18歳～55歳の成人32人を対象に、48週間にわたってピーナッツ歯磨き粉を徐々に増量しながら使用する群と、プラセボを使用する群に分けて行われました。

その結果、ピーナッツ歯磨き粉を使用した群のすべての人が、設定された量のピーナッツを摂取することができたそうです。中等度・重度の全身反応は見られず、あっても軽度かつ一時的な口の中の痒みだけであり、極めて優れた安全性のデータが得られたと報告されています。
この結果を受けて、次は4歳～17歳の小児を対象とした試験が計画されているようです。

 

もちろんこの結果だけで、口腔粘膜免疫療法が安全で有益なものといえるわけではありません。まだ第１相試験の段階であり、今後クリアすべき課題はたくさんあります。特に安全性の評価はさらに必要です。今回の研究では明らかな副反応は認めませんでしたが、もしかしたら朝歯を磨いて家を出た後に、通勤通学途中でアナフィラキシーを起こすなんていうこともあるかもしれません。

しかし、非常に明るい未来のある治療法だと思いますので、今後第Ⅱ相、第Ⅲ相試験と進んで、効果と安全性が担保された治療になるといいなと思います。
なんといっても歯を磨くだけという手軽さが素晴らしいと思いました。

 

 

これまでアレルギー疾患の対応の基本はアレルゲンの除去という消極的なものでした。しかし免疫療法の出現以降、アレルゲン除去と併用ではありますが根治を目指して積極的に治療を進めていくことが可能になってきました。

 

今後、免疫療法はさらに進化していくと思います。多くのアレルギー患者さんが症状無く穏やかに過ごせる日々が来ることを願っています。

 

 

参考文献

アレルギー免疫療法の手引き　日本アレルギー学会

Special Toothpaste Might Curb Peanut Allergy in Adults(healthday.com)