- アレルギー
- 2023.11.29
保湿剤によるアトピー性皮膚炎の予防
記念すべきブログの1回目は、医学論文の紹介をしたいと思います。
今回の論文は2014年に発表されたものですが、私がアレルギーの世界に興味を持つきっかけとなった個人的にとても思い入れのある1本です。
ではさっそく見ていきましょう。
出典はJournal of Allergy and Clinical Immunology 2014;134:824-830です。
著者は堀向健太先生というアレルギーを専門としている人なら知らない人はいない、SNSなどでも積極的に情報発信をされている超ご高名な先生です。
現在人口の約半分が何らかのアレルギーを持っているとされ、アレルギー疾患は国民病と言えるかもしれません。
21世紀に入ってから、いかにアレルギー疾患を予防していくかということに注目されるようになってきました。
この論文は、新生児期から保湿剤をしっかり塗ることでアトピー性皮膚炎を予防できるかどうかをみた研究になります。
対象はアトピー性皮膚炎の家族歴を有する母親から出生した赤ちゃん118名です。59名ずつ毎日保湿剤を塗る群(介入群)と必要時にワセリンを塗る群(コントロール群)の2群に分けて生後32週時点でのアトピー性皮膚炎の発症率を比べました。最終的に32週時点での評価に加わったのは介入群50名、コントロール群49名でした。
この2群を比較すると、介入群ではコントロール群に比べてアトピー性皮膚炎の発症率がなんと32%も抑制されるという結果が得られました。
アレルギー疾患の発症要因には遺伝も関連しています。アトピー性皮膚炎の家族歴を有するということは、言い換えるとアレルギーのハイリスク児ということになります。
したがって今回の研究から言えることは、「アレルギーのハイリスク児(家族歴を有する児)は生まれてすぐから毎日保湿剤を塗布することでアトピー性皮膚炎を予防することができる」ということになります。
ただし1つだけ注意点があります。今回の研究で用いられた保湿剤は、"モイスチャライザー"と呼ばれる皮膚に浸透して細胞と細胞をしっかりつなぎとめて水分を蓄える働きのあるタイプです。市販されているものの中でも、セラミドといった保湿成分を含む商品があり、これがモイスチャライザーにあたります。一方で"エモリエント"と呼ばれるタイプの保湿剤があり、これは皮膚の表面を覆い(要するに皮膚に浸透はしない)水分が逃げないように蓋をするタイプのものです。ワセリンがこれにあたります。
アトピー性皮膚炎を予防するためには、"モイスチャライザー"タイプの保湿剤を塗布する必要があります。
この論文が発表されて10年近い年月が経ちました。その後、世界中から同じように保湿剤の塗布とアトピー性皮膚炎の予防を研究した報告が多数行われています。
中には保湿剤の種類がエモリエントだったり、保湿剤を毎日塗布していなかったなどの要因でアトピー性皮膚炎が予防できなかったと結論づけている報告もあり、研究のスタイルにより結果はまちまちです。またアレルギーのハイリスク児ではない赤ちゃんに対する予防効果は認めないとされています。
しかし、私はやはりモイスチャライザーを毎日しっかり塗布すればアトピー性皮膚炎は予防できうると考えていますし、ハイリスク児でなかったとしても保湿剤をしっかり塗布して悪いことはないと考えていますので、当院に通われているお子さんには保湿を徹底するようお話ししています。
また近年、食物アレルギーの発症にアトピー性皮膚炎を代表とする皮膚バリア機能の低下が関与しているということが報告されています。
詳しくは今後のブログで取り上げていく予定ですが、きれいなお肌をキープすることで、アレルギー疾患を予防できるかもしれません。
お肌がきれいだと、心も弾みます。
毎日、丁寧にスキンケアをしてあげてください。
2014年当時、小児科の後期研修中だった私は将来のサブスペシャリティ(小児科の中のさらに細かい専門領域)の選択に迷っていました。そんなときに出会ったのがこの論文で、大変感動しそのままアレルギーの世界に飛び込みました。以来、アトピー性皮膚炎をはじめ食物アレルギーや気管支喘息などのアレルギー疾患をたくさん診療してきましたが、とても面白くやりがいのある分野だと思っています。これからも貪欲に新しい知見を手に入れて、皆さんにお届けしていきたいと思います。
不定期の更新にはなりますが、どうぞお付き合いください。