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  • 2026.08.18

ワクチンへのためらいにどう対応するか これから始まるインフルエンザワクチンを見据えて

ワクチンへのためらいにどう対応するか これから始まるインフルエンザワクチンを見据えてのイメージ画像

はじめに:ワクチン、どうしよう?と迷っている方へ

小児科医として「接種をおすすめします」とお伝えする理由

 

 

「ワクチンって本当に安全なの?」
「副反応が心配......
「インフルエンザワクチンって、打ってもかかるんでしょ?」

診療をしていると、このような質問をいただくことがあります。

 

インターネットやSNSを開けば、ワクチンについてさまざまな情報が目に入ります。中には正確な情報もありますが、残念ながら医学的な根拠が乏しい情報や、必要以上に不安をあおるような情報もあります。

 

大切なお子さんに接種するものですから、「本当に大丈夫なのだろうか」と心配になるのは不思議なことではありません。

 

では、私たち医療者は、ワクチンに不安を感じている保護者の方と、どのように向き合うべきなのでしょうか。

 

2026年、世界を代表する医学雑誌のひとつである The New England Journal of MedicineNEJM に、まさにこの問題を扱った「Childhood Vaccine Hesitancy(小児ワクチンへのためらい)」という論文が掲載されました。

 

この論文をきっかけに、今回は「ワクチンを打つか迷っている」という気持ちについて考えながら、これから接種シーズンを迎えるインフルエンザワクチンについても、現在わかっている科学的なデータをもとに考えてみたいと思います。

 

 

1.ワクチンへの迷い

「ワクチンを迷う」=「反ワクチン」ではありません

 

 

NEJMの論文では、ワクチンに対する考え方は、単純に「賛成」と「反対」の二つに分かれるものではなく、連続したスペクトラムとして存在すると説明されています。

 

積極的に接種する方もいれば、

「基本的には打たせたいけれど、副反応が少し心配」
「このワクチンは本当に必要なの?」
「同時に何本も打って大丈夫?」

と迷う方もいます。

 

こうした状態を vaccine hesitancy(ワクチン接種へのためらい) と呼びます。

このようなワクチンへの「迷い」は、決して珍しいものではありません。

NEJMの論文では、ワクチン接種をためらう保護者の多くは、ワクチンそのものに反対しているわけではなく、「子どもを守りたい」という思いを持ちながら、特にワクチンの安全性について不安を感じていると説明されています。

 

その一方で、私たちが忘れてはいけないのが、ワクチンによって予防できる病気そのもののリスクです。

小児に対する定期的なワクチン接種は、これまで多くの感染症の発症を大幅に減少させてきました。また、長年にわたる使用と安全性の検討を通して、小児の定期ワクチンには良好な安全性の実績があることも示されています。

さらに、この論文では、過去50年間の予防接種によって、世界で推計15400万人の死亡が回避されたという報告も紹介されています。

ワクチンについて考えるときには、接種による副反応だけを見るのではなく、「接種しなかった場合に、その病気にかかるリスク」も含めて考えることが大切です。

 

だからこそ、ワクチンについて不安や疑問があるときには、正確な情報をもとに、ワクチンを接種することの利益とリスク、そして接種しないことによるリスクを一緒に考えていく必要があります。

 

 

2.医療者からの推奨

私たちは「打っても打たなくても、どちらでもいい」とは考えていません

 

 

では、ワクチンに不安がある方に対して、医療者はどうすればよいのでしょうか。

 

NEJMの論文が強調していることの一つが、医療者からの明確な推奨です。

医療者は保護者にとって重要かつ信頼されているワクチン情報源であり、医療者からのはっきりとした推奨は、実際のワクチン接種と強く関連しています。

ワクチン接種率を高めるためのさまざまな介入を検討した研究でも、医療者からの推奨は接種率向上と関連することが示されています。

 

だから私たちは、

「メリットとデメリットがありますから、あとはご自由に」

と説明して終わることが、決してよい医療だとは思いません。

もちろん、最終的に接種を決めるのは患者さん・保護者です。

しかし、医学的なエビデンスを検討してメリットがリスクを上回ると判断されるワクチンについては、医療者として「接種をおすすめします」と明確にお伝えすることも私たちの役割だと考えています。

 

 

3.不安との向き合い方

「積極的に勧める」ことと「不安に耳を傾ける」ことは両立します

 

 

ここは非常に大切です。

NEJMが推奨しているのは、保護者の不安を無視して、強引にワクチンを接種させることではありません。

まず医療者が接種を明確に推奨する。

そこで、

「副反応が心配です」

SNSで怖い話を見ました」

「本当に必要なんでしょうか?」

という疑問が出てきたら、その内容をきちんと聞きます。

何が一番心配なのかを確認し、医学的にわかっていることを説明する。

このような共感的で、患者さんを中心としたコミュニケーションが重要だとされています。

 

NEJM論文では、ワクチンについての効果的な対話として、

  1. まずワクチン接種を推奨する
  2. 不安があれば、何が心配なのかを聞く
  3. 医学的な知識を共有する
  4. 意思決定を支援する
  5. その日に接種しなくても、今後も話し合いを続ける

という考え方が示されています。

 

つまり、

「不安があることを否定しない」ことと、「医学的に必要なワクチンを積極的に勧める」ことは両立すると思います。

 

私たちも、この姿勢がとても大切だと考えています。

 

 

4.インフルエンザワクチンの有効性

インフルエンザワクチンは本当に効くのでしょうか?

 

 

ここからは、毎年多くの保護者の方から質問されるインフルエンザワクチンについて考えてみましょう。

よく聞くのが、

「インフルエンザワクチンって、打ってもかかりますよね?」

という質問です。

これはその通りです。

インフルエンザワクチンは、接種すれば100%インフルエンザにならなくなるワクチンではありません。

インフルエンザウイルスは変化し続けますし、その年に流行するウイルスとワクチン株との一致度などによっても効果は変動します。

 

では、「100%防げないなら、打つ意味がない」のでしょうか?

決してそんなことはありません。

 

ワクチンの効果は、「接種すれば絶対にかからないか」ではなく、「接種することで、病気になる可能性をどの程度下げられるか」で考える必要があります。

 

インフルエンザワクチンを接種すると、実際に子どもがインフルエンザを発症する可能性はどの程度下がるのでしょうか?

質の高い医学的エビデンスをまとめることで知られるCochrane Collaborationは、健康な小児に対するインフルエンザワクチンの効果をsystematic reviewとして検討しています。

2018年のレビューでは、不活化インフルエンザワクチンについて、216歳の小児で、検査によって確認されたインフルエンザの発症率が、

ワクチンなし:30%

ワクチンあり:11%

に低下していました。

相対リスクは0.3695%信頼区間 0.280.48)で、この結果についてのエビデンスの確実性は「high」と評価されています。

このデータでは、約5人にワクチンを接種すると、1人のインフルエンザ発症を防ぐ計算になります。

もちろん、毎年必ず「30%から11%になる」という意味ではありません。流行状況やウイルスの種類によって効果は変化します。

重要なのは、

「打ってもかかることがある」=「効果がない」ではないということです。

ワクチン接種有無での発症率の変化.png

図の出典:
Jefferson T, et al. Vaccines for preventing influenza in healthy children. Cochrane Database Syst Rev. 2018;2.

 

 

5.入院予防効果

ワクチンの目的は「かからないこと」だけではありません

 

 

インフルエンザワクチンを考えるうえで、もう一つ非常に重要なのが、入院するような重いインフルエンザを減らせるかという点です。

 

2021年にClinical Infectious Diseasesに発表されたsystematic reviewmeta-analysisでは、17歳以下の小児について、インフルエンザワクチンがインフルエンザ感染による入院をどの程度防ぐかが検討されました。

37研究を統合した解析では、インフルエンザによる入院に対するワクチン有効率は、

53.3%(95%信頼区間 47.2~58.8%)でした。

つまり、ワクチンは単に「インフルエンザになる可能性」を下げるだけではなく、インフルエンザによって入院するリスクもおおむね半分程度減らしていたことになります。

ただし、ウイルスの型によって効果は異なり、

  • A/H1N1pdm0968.7
  • A/H3N235.8

と差がありました。

さらに、流行株とワクチン株が抗原的によく一致しているシーズンでは、入院予防効果は59.3%でした。

 

もちろん、インフルエンザワクチンの効果は毎年同じではありません。

「万能ではない。でも、発症や入院のリスクを下げるための有効な手段である。」

このように考えるのが適切だと思います。

入院抑制.png

図の出典:
Boddington NL, et al. Effectiveness of Influenza Vaccination in Preventing Hospitalization Due to Influenza in Children: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Infect Dis. 2021;73:1722-1732.

 

 

6.インフルエンザワクチンの安全性

「副反応が心配」安全性についても考えてみましょう

 

 

当然、効果だけでなく安全性も考えなければなりません。

2024年に発表された小児インフルエンザワクチンの有効性・安全性に関するsystematic reviewでは、20122022年に発表された研究が検討されています。

このレビューでは、ワクチンの有効性は使用されたワクチンや流行したウイルスによって約30~80%と大きな幅がありました。

一方、安全性については、解析された研究における副反応の多くは軽度であり、最も多かった局所反応は接種部位の痛みでした。

著者らは、解析した研究から小児インフルエンザワクチンの安全性を肯定的に評価しています。

ただし、このレビューに含まれた原著論文は7報のみです。

したがって、このレビューだけですべての安全性が証明されたと考えるのではなく、これまで長年にわたって蓄積されてきた安全性データも含めて評価する必要があります。

 

ワクチンに副反応が「まったくない」と説明するのは正確ではありません。

一方で、

副反応の可能性だけを見て、接種しなかった場合のインフルエンザそのもののリスクを考えないというのも、適切な比較ではありません。

大切なのは、両方を比べて考えることです。

 

 

7.国内外の推奨

日本でも、インフルエンザワクチンは明確に推奨されています

 

 

「海外の研究ばかりだけど、日本ではどうなの?」

と思われる方もいらっしゃるでしょう。

日本小児科学会は、「2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」の中で、

  • インフルエンザの発症を予防する
  • 学校の欠席日数を減らす
  • インフルエンザによる入院を減らす

といった効果を挙げたうえで、

「日本小児科学会はインフルエンザワクチンの接種を推奨する」

と明確にしています。

また米国小児科学会(AAP)も、医学的な禁忌がない生後6か月以上のすべての小児に、毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨しています。

つまり、インフルエンザワクチンは、

「希望する人だけが何となく打つもの」

という位置づけではありません。

国内外の小児科学の専門家が、現在得られている有効性と安全性のデータを踏まえたうえで、小児への接種を推奨しているワクチンです。

 

 

8.ワクチンの利益とリスク

ワクチンは「100%」ではありません。それでも私たちは接種をおすすめします

 

 

ここまで読むと、

「結局、ワクチンを打ちましょうという話でしょう?」

と思われるかもしれません。

 

その通りです。

当院では、医学的に推奨されているワクチンについては、積極的な接種をおすすめします。

 

ただし、その理由は「ワクチンだから無条件に安全」ということではありません。

医療に100%はありません。

ワクチンにも副反応はありますし、インフルエンザワクチンのように、接種していても感染・発症することがあるワクチンもあります。

だからこそ重要なのは、

「100%安全か?」
「100%効くか?」

だけで判断することではありません。

接種した場合に得られる利益とリスク、そして接種しなかった場合に病気にかかるリスクまで含めて比較する必要があります。

現在までに蓄積されたエビデンスを総合すると、小児に推奨されているワクチンについては、その利益がリスクを上回ると考えられています。

だからこそ、私たちは接種をおすすめします。

 

 

9.当院の考え方

迷っている方こそ、ぜひ相談してください

 

 

ワクチンについて疑問を持つこと自体は問題ではありません。

「副反応が怖い」
SNSでこんな情報を見た」
「本当にこのワクチンは必要なの?」

そのような疑問があれば、ぜひ診察の際に聞いてください。

医学的にわかっていること、まだ十分にはわかっていないこと、どの程度のリスクがあるのかを、できるだけわかりやすく説明したいと思います。

そのうえで、医学的に接種するメリットが大きいと考えられるワクチンについては、私たちは曖昧にせず、

「接種をおすすめします」

とお伝えします。

それが、お子さんをワクチンで防ぐことのできる病気から守るために、小児科医が果たすべき役割の一つだと考えているからです。

 

インフルエンザワクチンも完璧なワクチンではありません。

接種していてもインフルエンザになることはありますし、その効果もシーズンによって変動します。

しかし、

100%防げない」ことと「意味がない」ことは、まったく違います。

 

発症する可能性を下げる。
入院する可能性を下げる。
そして、自分だけでなく、家族や周囲の人たちを守ることにもつながる。

 

そうした利益を積み重ねるのがワクチンです。

ワクチンについて迷っている方は、ぜひご相談ください。

そして、必要なワクチンは適切な時期にきちんと接種しましょう。

当院では、今年もインフルエンザワクチンの接種を積極的におすすめします。

 

参考文献

  1. O'Leary ST, Danchin M. Childhood Vaccine Hesitancy. N Engl J Med. 2026;394:2134-2145.
  2. Jefferson T, Rivetti A, Di Pietrantonj C, Demicheli V. Vaccines for preventing influenza in healthy children. Cochrane Database Syst Rev. 2018;2.
  3. Boddington NL, Pearson I, Whitaker H, Mangtani P, Pebody RG. Effectiveness of Influenza Vaccination in Preventing Hospitalization Due to Influenza in Children: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Infect Dis. 2021;73:1722-1732.
  4. Escandell Rico FM, Pérez Fernández L. Efficacy and safety of pediatric flu vaccination: a systematic review. Rev Esp Quimioter. 2024;37:43-51.
  5. American Academy of Pediatrics, Committee on Infectious Diseases. Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2025-2026: Policy Statement. Pediatrics. 2025;156.
  6. 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針. 2025107.