- 小児一般
- 2023.12.04
かぜのお話①
小児科クリニックで診療していて感じるのは、「やっぱり風邪の患者さんが多いな~」ということです。たいていは軽症なのですが、我々医師にとってこの"風邪"という疾患はなかなかに侮れません。「薬を飲んでいるのに、全くよくなりません!!」そういったお言葉を外来では頻繁に頂戴します。今までたくさんの疾患を経験してきましたが、もしかしたら風邪の治療(と言うよりも、風邪のことを正しく理解してもらうこと)が一番難しいんじゃないかなとすら思います。
そこで、今回はこの"風邪(かぜ)"という大変悩ましい病態について、自分の知識の整理と皆さんにも正しく理解してもらうことを目的に2回に分けて解説したいと思います。今回は風邪の病態について、次回は治療についてお話していきたいと思います。
風邪とは
最初はそもそも"かぜって何なの?"からです。
なんとなく咳や鼻みずが出て・・・というのは想像できますが、詳しく説明できる人は少ないのではないでしょうか。
教科書を見てみると「鼻汁、鼻閉を主症状とした上気道の急性ウイルス感染症」と書かれています。しかし実際にはウイルスだけではなく、ばい菌の感染で上気道症状を起こすこともあります。したがって、風邪はあくまでも「重症ではない(自然に治ってしまう)上気道感染症」と言えると思います。
風邪の症状
上気道というのは図にもあるように鼻とのどを指します。
上気道感染症ではここに病原体がくっついて炎症が起こりますので、症状としては鼻みず、のどの痛みが出てきます。
鼻みずがひどくなると鼻づまり、鼻みずがのどに垂れ込んで咳が出るといった症状も当然見られますし、他に発熱や頭痛などを伴うこともあります。
風邪の自然経過
教科書やいくつかの風邪に関する論文を読んでみると、風邪の定義としては「上気道に限局した自己完結性の疾患」でおおむね一致しています。
つまり風邪の特徴は自然に改善する軽症の疾患と言えます。では、どのくらいの期間で改善していくのでしょうか。
上のグラフは、風邪について考察された論文からのデータです。縦軸は風邪症状を有する割合、横軸は時間経過を表しています。
そこからの引用ですが、概ね半分の子どもは7日~8日目までに症状が改善し、80%の子どもは14日目までに改善するとされています。
つまり風邪は自然に治っていきますが、ある程度時間が必要で2~3週間程度は様子を見る必要があると思います。さらに、咳に限って言うと鼻みずなどの症状が治まった後もしばらく続くことが多いとされています。しっかり改善するためには1か月くらいみておかなければいけないかもしれません。
逆に言えば、2週間程度を過ぎても鼻みずや咽頭痛が治まらない場合は風邪の一般的な経過からは外れてくるということになるので、検査の追加や治療方針の変更を考えるきっかけになると言えます。
風邪は繰り返す ~うちの子、風邪引きすぎじゃない?~
風邪は繰り返します。思っている以上に繰り返します。
特に保育園や幼稚園の入園1年目はびっくりするくらい風邪を引きます。また園児の数が多ければ多いほど、風邪を引く割合は増えていきます。
親御さんが想像する以上に風邪を引くこともあるので、よく「うちの子、免疫大丈夫ですか?」といった相談も受けます。
なぜ頻繁に風邪を引くのか?
その答えは、"原因となる病原体がたくさんありすぎるから"です。
ライノウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス・・・数えだしたらキリがないくらい、そしてまだ人類が認知していないウイルスもあるだろうと言われています。ライノウイルスなんかは種類が100個ほどあります。それぞれ風邪症状を引き起こすウイルスですから、そりゃ風邪は何回も引くわなという感じです。
先ほどとは別の風邪についてまとめた論文によると、次のようなデータがあります。
これを見ると保育園に入る1歳前後のお子さんは、平均して年に6回ほど風邪を引いていることが分かります。あくまでも平均なので、多いお子さんの場合は10回くらい風邪を引くこともあるでしょう。
先ほども述べたように風邪は大体2~3週間の経過で治まっていきますから、おおむね1か月おきに何らかの症状を呈していることになります。さらに少しこじれてしまうと、それこそずっと何かしらの症状があるということも珍しくありません。ですので、多少症状を繰り返していても、食事摂取や睡眠がまずまず取れていれば過度に心配する必要はないかもしれません(ただし、もちろん注意深い経過観察は必要です)。
まとめ
本日の内容はここまでです。
まとめると
・風邪は自然に改善する上気道の感染症です
・自然に治るけど、日数は少しかかります
・特に乳幼児期は1年に何回もかかります
といったところです。
次回第2弾では風邪の治療についてお話ししたいと思います。
寒くなってきてインフルエンザやアデノウイルス感染症が増えてきています。
暖かくして体調管理に努めましょう。
参考文献
金原出版株式会社 伊藤健太著 子どものカゼのトリセツ
BMJ 2013;347:f7027
Lancet 2003;361:51-59