風邪の治療

小児科・アレルギー科 かわむらクリニック
院長ブログ
BLOG

院長ブログ

小児科・アレルギー科 かわむらクリニックの院長ブログ
  • 小児一般
  • 2023.12.18

かぜのお話②

かぜのお話②のイメージ画像

前回の投稿からずいぶん時間が経ってしまいました。

さて、今日は風邪のお話の2回目です。
風邪のお話の中でも特に気になる風邪の治療についてお話ししたいと思います。

 

風邪の治療

前回も書きましたが、風邪は数多ある病気の中でも屈指の治療難易度を誇る疾患だと思っています。治療が難しい理由はいたって簡単です。"特異的な治療法が無い"これに尽きます。要するにこれを飲めばたちどころに良くなる、といった薬が存在しないということです。

本来自然に治っていく病気ですから、根本的な治療は必要なく、せいぜい症状を少し和らげてくれる薬で十分事足りるのです。

 

風邪を正しく治療するには、患者さんや親御さんだけでなく我々医療者も薬について正しく理解する必要があると思います。

 

ということで、ここから風邪の時によく使われるお薬についてみていきましょう。

 

 

咳止め(鎮咳薬)

風邪の症状で困ることが多いのが咳です。外来でも「咳止めをください」と言われることは多いですし、実際最も多く処方される薬ではないでしょうか。

 

「咳が出てるんだから、咳止め飲むのが当然でしょう」と考える方はたくさんおられると思います。しかし、実際にはなぜ咳が出ているのかを考える必要があります。

風邪の場合、高い確率で鼻水や痰(気道分泌物)を伴っています。この分泌物がのどに垂れ込んでくると、体の生理的な反射として咳が出ます。つまり咳は体に異物を取り込ませないようにする大切な反応でもあります。でも咳止めを飲んでいると、この大切な働きを阻害して分泌物が排出できず、結果症状が長引くなんてこともあるかもしれません。

 

こんなデータがあります。風邪を引いた子どもに痰を出しやすくする薬のみを与えた群と、そこに咳止めを加えて与えた群のその後の経過をみた研究です。

 

痰切りvs咳止め2.png

 

咳止めを加えた群では、良くなったと答えた人の割合が少なく、悪くなったと答えた人の群が多いことが分かります。一方痰を出しやすくする薬のみを飲んだ群では、良くなったと答えた人が過半数を占めていました。つまり咳止めを飲むことで余計に症状がひどくなって長引くことが多いという結果でした。

 

その他にも咳止めの効果を疑問視する研究結果は複数あります。

 

また特に注意が必要な例として、基礎疾患に喘息がある方が挙げられます。

喘息の症状は風邪をきっかけに起こりやすいことが知られています。咳止めの薬には呼吸抑制作用があり、特に喘息の発作が出ているときには内服をやめるようガイドラインにも明記されています。

 

個人的な考えとしては、咳止めにはあまり効果を感じていません。少なくとも鼻水や痰を伴う咳の場合は、いわゆる咳止めの薬は不要と考えていますし、処方もしないようにしています。鼻水も痰も無くて、コンコンとした咳だけが出ている場合にのみ処方を考慮します。

 

 

 

痰切り(去痰剤)

痰切りのお薬にもいくつか種類がありますが、痰を柔らかくして排出しやすくするというのがおおむね共通した働きかと思います。

一般的によく使われている痰切りの薬は、カルボシステインとアンブロキソールですので、この2剤を見ていきましょう。

 

先ほどの咳止めのところでも出てきたグラフを見ると、カルボシステインだけを飲んだ群で症状が良くなったと答えた人が過半数を占めています。もちろん、その中には自然経過で良くなっている人も含まれていると思いますが、ポジティブな結果だと思います。

またかなり古いデータですが、カルボシステインを飲んだ群と飲んでいない群の1週間後の痰が出るリスクを比べた研究では、カルボシステインを飲んでいた群の方が低かったという結果も得られています。

アンブロキソールに関しては、比較的重症度の高い肺炎に伴う咳の症状には有効との報告があります。

 

 

一般的な風邪ではやはり粘稠度の高い(ネチョネチョした)鼻水が喉に垂れ込んでで咳が出たり、夜間不眠の原因になることが多いと思います。もちろん痰切りを飲んでもそういった鼻水が無くなるわけではありませんが、補助的に症状緩和作用はあるかと考えており、当院ではよく処方をしています。

 

 

 

鼻水止め

鼻水を抑える薬として抗ヒスタミン薬が用いられることがあります。

アレルギー性鼻炎(花粉症やほこりによるものなど)の鼻水であれば、もちろんこういった薬は有効ですが、果たしてかぜの鼻水には効くのでしょうか。

 

 

アレルギー性鼻炎の場合、アレルゲンに暴露されると肥満細胞という細胞からヒスタミンが放出され、出てきたヒスタミンが受容体に結合することで鼻水やくしゃみといった症状が出ます。抗ヒスタミン薬はヒスタミンが受容体に結合するのをブロックすることで症状を食い止めます。

 

風邪の場合、まずウイルスが感染して鼻の粘膜で炎症が起きます。するとサイトカインという炎症物質が出てきて、その刺激で粘液や水分が増えたり、漏出液が増えて鼻水になります。またサイトカインの働きによりヒスタミンが放出され、その結果やはり漏出液が増えて鼻水となります。

 

風邪の時にもヒスタミンが一部関与していることが分かりました。そうなると抗アレルギー剤が効きそうな印象ですが、色々な研究の結果を見てみるとその効果には懐疑的なものが多いようです。

 

小児の風邪と抗ヒスタミン剤の関係をみた2本の論文のまとめによると、1つの論文からは抗ヒスタミン剤を使用することで風邪症状の期間が短くなる傾向にあったが、有意な差ではなかったと報告されています。もう1本の論文からは、抗ヒスタミン剤を使用した方が、7日後の鼻づまりの改善は有意だが、風邪の重症度には影響しなかったと報告されています。そして最終的には子どもの風邪に抗ヒスタミン剤を使用しても効果は無いと結論づけられています。

 

また抗ヒスタミン剤を使用することによる不利益も考えなければいけません。

抗ヒスタミン剤は大きく第1世代と第2世代に分けられ、さらに第2世代は鎮静性と非鎮静性に分類されます。

一般的に第1世代は効果発現が早いですが、中枢神経への移行性が高いため、眠気や集中力の低下などが見られやすくなります。第2世代は第1世代の強い鎮静作用を改善するために作られましたが、もちろん鎮静作用が全くないわけではありませんので、注意が必要です。

 

また第1世代の抗ヒスタミン剤は熱性けいれんを誘発したり、熱性けいれんが長引く可能性があるとの報告もあります。

 

以上より、風邪に対する抗ヒスタミン剤の効果と副作用を天秤にかけた結果、副作用によるリスクの方が大きく、風邪の時に抗ヒスタミン剤を漫然と処方するのは一般的には推奨されません。

 

 

当院の方針としては、粘稠な鼻水や色のついた鼻水には処方しません。また熱性けいれんの既往がある方にも基本的には処方しません。だらだらと水のような鼻水が垂れているときにのみ処方しています。ただし、経過の中で鼻水が粘稠になってきたときは中止してもらうよう説明しています。

 

 

本日はここまでです。

治療について一気に書こうかと思いましたが、思いのほかボリュームがありそうなので治療の後半(抗菌薬が必要かどうかなど)については後日アップしたいと思います。

 

 

まとめ

風邪の時によく使用される3種類の薬剤について私見も含めてまとめてみました。

咳止め:鼻水が垂れ込んで咳が出ているときは必要なし。

痰切り:症状緩和効果はありそう、なにか内服するなら痰切りが無難。

鼻水止め:透明サラサラの水っぱなであれば多少の効果はあるかも、色のついている粘っこい鼻水の時は飲まない。

【参考文献】

金芳堂 大久保祐輔著 システマティック・レビューとメタ解析で読み解く小児のかぜの薬のエビデンス

金原出版株式会社 伊藤健太著 子どものカゼのトリセツ

外来小児科 西村龍夫ら 2019;22:124-132

協和企画 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023

Cochrane Database of Systematic Reviews 2022, Issue 1. Art. No.:CD004976 An IM De Sutter et al.