- 小児一般
- 2023.12.27
風邪のお話③
風邪のお話の最終章、治療のお話第2弾です。
前回は咳止め、痰切り、鼻水止めについて解説しました。
今回は抗菌薬のお話を中心に進めていきたいと思います。
抗菌薬
「風邪の原因の9割以上はウイルス感染によるものですから、ばい菌をやっつけるための抗菌薬は風邪の治療に必要ない。」
初っ端からど正論をぶっ放してみました。
ですが、実際の臨床の場では、しばしば風邪で抗菌薬が処方されていることがあります。
どういうときに本当に抗菌薬が必要なのか、詳しく見ていきましょう。
風邪で抗菌薬がよく出されているわけ
その理由として、一つは「黄色い鼻が出て、ばい菌に感染しているかもしれない」というもの。しかし本当のことを言うと、鼻水が黄色いからという理由のみで抗菌薬の適応にはなりません。風邪の一般的な経過の中で、鼻水が黄色くなることはよくあります。ですから、黄色い鼻水もかぜの自然経過であるという認識を持つことが大切です。
風邪で抗菌薬が処方される二つ目の理由として、重症化や二次感染(風邪による体力低下をきっかけに細菌に感染すること)を予防しようというもの。しかし実際には、風邪の時に抗菌薬を投与しても細菌感染の予防にはならないことが報告されています。
以上が風邪の時に抗菌薬が処方されやすい理由になります。しかし、いずれの場合も抗菌薬は不要です。そればかりか、不必要な抗菌薬を使うことによるデメリットが問題になります。
抗菌薬投与によるデメリット
抗菌薬は微生物が増えるのを抑えたり壊したりする薬ですが、微生物も生き延びなければいけないので薬から逃れようとします。抗菌薬の不適切な使用により、抗菌薬が効きにくくなり、この状態を薬剤耐性といいます。薬剤耐性菌が増えると、今までは適切に治療をすれば回復できた感染症の治療が難しくなって重症しやすくなり、最悪の場合死に至る可能性も出てきます。
必要のない抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌の発生につながりますので厳に慎まなくてはいけません。また逆に抗菌薬を処方された場合は、途中でどんなに元気になっても必ずすべて飲み切るようにしましょう。
もう1つの抗菌薬投与のデメリットとして、アレルギー疾患の発生が挙げられます。
乳児期の抗菌薬投与とその後のアレルギー疾患の発生について報告された論文の結果をいくつかご紹介します。
近年、アレルギー疾患に関わらず様々な疾患と腸内細菌叢(ちょうないさいきんそうと読みます)の関連が指摘されています。腸内細菌叢とはヒトの腸管内に存在する多種多様な細菌の集団のことを言います。これらのたくさんの細菌はバランスをとりながら体の健康を維持しています。
抗菌薬は細菌を倒す薬なので、投与されることで腸内細菌叢のバランスが崩れてしまいます。この腸内細菌叢のバランスの崩れをdysbiosis(ディスバイオーシス)と言います。近年、このdysbiosisが全身の様々な疾患に関与していることが分かってきました。
上の乳児期の抗菌薬投与とその後のアレルギー疾患発症の関連を見た研究結果は、このdysbiosisに起因したものと考えられます。
これらの結果を見ると、少なくとも2歳までは抗菌薬の投与を慎重に見極めた方がいいのかなと感じます。
(決して2歳以下の子どもに抗菌薬を投与してはいけないと言っているわけではありません。本当に必要な場合は、むしろ積極的に使うべきです。熱が出ているからとか、鼻が少し黄色いからとか、そんな理由で安易に処方するべきではないということです。)
どんな時に抗菌薬が必要か
一方で風邪として経過を見ていたけども、途中から抗菌薬が必要な状態になることもあります。ではどういったときに抗菌薬が必要になるのでしょうか。
一般的な風邪の経過としては、鼻水・咳・痰・咽頭痛・倦怠感などが3~5日目をピークとして大体2~3週間ほどで自然に改善していきます。
しかしこういった一般的な自然経過から外れて進行性に悪化する場合や、いったん良くなった症状が再度ひどくなる時は二次的な細菌感染症が合併していることがあると言われており、この場合は抗菌薬が必要です。
すごくややこしいことを言いますが、「二次的な細菌感染症の予防に抗菌薬は不要(正確には投与しても予防できない)ですが、二次的な細菌感染症を合併している時には抗菌薬は必要」です。
具体的に抗菌薬が必要になる状態を見てみましょう。
ここでは、感冒・急性鼻副鼻腔炎・急性咽頭炎・急性気管支炎をそれぞれ鼻症状(鼻水・鼻づまり)・咽頭症状(喉の痛み)・下気道症状(咳、痰)の程度によって分類しています。
感冒では鼻・咽頭・下気道症状がバランスよくかつ軽く見られます。副鼻腔炎では鼻症状が、咽頭炎では咽頭症状が、気管支炎では下気道症状がそれぞれ突出して見られます。
つまり、各症状がまんべんなく見られていて程度もそこまで強くなければ風邪として抗菌薬は必要ないことが多いと考えられますし、一方でいずれかの症状のみが目立ち程度もひどい、もしくは徐々にそういった傾向になってくるようであれば、抗菌薬の投与を考えたほうがいいかもしれません。
風邪の時の抗菌薬の適応は非常に難しいです。安易に処方すべきではないと考えていますし、患者さんの病態をしっかり見極めたうえで処方を考えていきたいと思います。
はちみつ
意外に思われるかもしれませんが、はちみつの咳止め効果は昔からよく言われています。
さらに、お恥ずかしい話、私は知らなかったのですがはちみつは病院で処方することができます(実際には単シロップのように粉薬の甘味付けとして処方されるようです)。
いくつかの研究をまとめた結果からは、それぞれ
2~5歳:2.5ml
6~11歳:5ml
12~18歳:10ml
のはちみつを1回服用すると、咳が軽減したと報告されています(10mlのはちみつを摂取るのはなかなか至難の業のような気もしますが・・・)。
一方で2022年に日本から報告された1歳~5歳児を対象とした研究では、はちみつで夜間の咳嗽は抑えられなかったとも報告されています。
がっつりとした咳止め効果があるわけではなさそうですが、はちみつのいいところは、家庭でも手に入りやすいところと、目立った副作用が無いところです。下手に咳止めを飲むくらいなら、試してみる価値は十分にあると思います。
1点だけ注意点としては、1歳未満の乳児には決してはちみつを与えてはいけないということです。ボツリヌス症で最悪命を落としますので、そこだけは覚えておいてください。
漢方
漢方に関するまとまったデータというのはほとんどありません。
一般的な咳止めは脳に働きかけますが、漢方の咳止めは実際に炎症がある場所に働きかけます。味の問題でなかなか内服ができないこともありますが、漢方ははまると劇的に効きます。ですので飲める人には積極的に使っていきたいと思っています。一般的には味の濃いココアやチョコレートアイスなどに混ぜて飲むことをお勧めしています。
(嘘か本当かは分かりませんが、漢方が効く場合、おいしく飲めると言われます。ちなみに私の息子と娘は漢方をごく少量の白湯に混ぜて渡すと「美味しい!!」と言いながら、プリンでも食すかのようにスプーンで次々にすくいながら飲んでしまいます。)
鼻吸い(鼻腔吸引)
風邪の時は、鼻水がつきものです。鼻水は咳の原因になりますし、放っておくと中耳炎や副鼻腔炎になってしまうこともあります。またあまりにもたくさん出ていると、睡眠障害や乳児の場合哺乳障害、呼吸障害につながりかねません。生活の質を低下させかねない、決して侮れない症状です。でも、風邪の鼻水に効果的な薬はありません。基本的には鼻をしっかりかむしかないのですが、小さいお子さんはなかなかうまくかめません。そんな時に有用なのが、"鼻吸い"です。風邪の時に鼻水を取り除くこと(気道浄化といいます)はとても大事です。もちろん鼻水が取り除いたからといって、治りが早くなるわけではありません。しかし気道浄化を行うことで生活の質は格段に上がりますので、おすすめです。
鼻吸い器は色々な種類のものが市販されています。口で吸うタイプもありますが、これは吸う人の肺活量に左右され十分に吸えないのと、吸った人が感染するリスクが高いですのでお勧めしません。電動のものをお勧めします。赤ちゃん用品を販売しているお店や、インターネットでも購入可能です。吸引圧が-80kPa程度あるものがいいと思います。
ちなみに入浴後は鼻水が柔らかくなりますので、絶好の吸い時です。
乳幼児期は頻繁に風邪を引きますし、鼻を自分でしっかりかめるのは早くても5歳以降くらいです。鼻吸い器は一台あると、本当に重宝します(大人の方も使用可能です)。
当院では感冒時、鼻吸いだけでの受診も可能です。是非ご利用ください。
最後に
風邪の時によく使用されている薬について2回に分けてまとめてみました。
ブログを書くということに慣れておらず、長文駄文になっていて読みにくいところもあるかと思います。すみません。今後、たくさん文章を書くことで少しずつスキルアップしていくかと思われますので、引き続きお付き合いいただければと思います。
今一度風邪について調べなおしてみることで、自分自身の知識の整理になりましたし、理解を深めることができたと感じています。今後の診療にしっかり役立てていきたいと思います。
風邪はcommon coldと言われるように、基本的には軽症の疾患であり、それが故に治療もあまり深く考えずに行われていることが多いように感じます。
私は町医者ですから、当然風邪のお子さんを相手にすることが一番多いです。だからこそ、この軽視されがちな風邪という病態に真剣に向き合う必要があると思いました。
今回ブラッシュアップした知識をもとに、真摯な姿勢でお子さんと向き合い、皆さんにとって何が最も適切な治療なのかを考えながら診療にあたりたいと思います。
今後とも当院をよろしくお願いいたします。
参考文献
金芳堂 大久保祐輔著 システマティック・レビューとメタ解析で読み解く小児のかぜの薬のエビデンス
金原出版株式会社 伊藤健太著 子どものカゼのトリセツ
外来小児科 西村龍夫ら 2019;22:124-132
協和企画 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023
American Family Physician Vol.100(5) Sep. 1 2019 Katharine C. DeGeorge et al.
外来小児科 西村龍夫ら 2022;25(3):372