夜尿症を考える

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  • 小児一般
  • 2024.09.18

いまいちど夜尿症(おねしょ)診療を考えよう

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今回のテーマは夜尿症、いわゆるおねしょについてです。

 

夜寝ているあいだにおしっこが漏れて、朝起きたらパンツやパジャマがぐっしょり、布団やシーツ、マットレスまで冷たくなってしまうこともしばしば。

誰が悪いわけでもないけど、なんとなく気分は落ち込みがちになりますね。

もう小学生なのに、この子はいつまでおねしょが続くんだろうと心配になる親御さんもおられると思います。

今回は夜尿症に関して、日常生活での注意点や治療の選択肢についてまとめてみました。

 

なお、昼間に漏れてしまう昼間尿失禁や昼間遺尿症に関しては今回の内容では触れていませんので、ご注意ください。

 

 

 

 

夜尿症の定義

5歳を過ぎても週に2-3回以上の頻度で、少なくとも3か月以上連続して夜間睡眠中の尿失禁(おもらし)を認めるものを夜尿症といいます。

 

 

疫学

7歳児の夜尿症の頻度は10%と言われています。その後年間約15%ずつ自然治癒していき、大人になるころにはほぼ全例が治癒するとされています。

また夜尿症は家族性が高いと言われています。夜尿症でない家族から生まれた子供の発症率が15%であるのに対して、片親または両親が夜尿症であった場合のお子さんの発症率はそれぞれ44%77%、また一卵性双生児が揃って夜尿症になるのは66%、二卵性の場合は36%だそうです。

 

 

原因

夜尿症の原因には3つあります。

①睡眠から覚醒する能力、②夜間の膀胱の畜尿能力、③夜間の尿の生成(夜間多尿)のミスマッチです。

実際にはこれらが単独に原因となっている場合、複数がからみあって原因となっている場合があります。

 

夜尿原因.png

 

睡眠から覚醒する能力の低下

夜尿症のお子さんは起こしても覚醒しにくいと報告されています。音刺激や光刺激をしても夜尿症患児はなかなか起きません(覚醒閾値が高いといいます)。覚醒閾値が高いのでなかなか起きませんが、ではそれがいい睡眠とつながっているかというと必ずしもそうではありません。実際、夜尿症患児の睡眠の質は悪いという報告もあります。様々な装置を用いて調査した結果、夜尿症患児では睡眠の質・効率は低下し、また睡眠時間に占める深睡眠の割合は低下、浅睡眠の割合が増加している可能性が高いようです。

 

夜間の膀胱の畜尿能力の低下

夜尿症患児では、夜間に排尿筋や膀胱の収縮のコントロールができなくなり、排尿筋/膀胱が過活動を起こすことで尿を溜めておくことができなくなります。つまり実際の膀胱容量は問題なくても、溜めることができないので相対的な膀胱容量は低下しています。

 

夜間の尿の生成の増加

体が発達すると夜間に抗利尿ホルモンというホルモンが分泌されます。利尿(おしっこを作ること)に抗う(あらがう)ホルモンなので、要はこのホルモンが十分あればおしっこの生成量は減少します。一般的に抗利尿ホルモンの分泌には日内変動があり、昼間より夜間に多く分泌されるため、夜間の尿産生は少なくなります。しかし夜尿症患児では夜間の抗利尿ホルモンの分泌が低下しているため、夜におしっこの量が増えてしまいます。また寝る前の過剰な飲水や、日中の塩分の摂取過多も夜間の尿量増加の原因になります。

 

以上のように、夜尿症は夜間睡眠中の覚醒障害をベースに、抗利尿ホルモン分泌不足による尿量増加や排尿抑制機構のコントロール不足による相対的膀胱容量低下によって起こると考えられます。

 

 

夜尿症への対応(治療)

夜尿症への対応は大きく生活指導、薬物療法、アラーム療法の3つに分けられます。

それぞれを詳しく見てみましょう。

 

生活指導

治療の第1歩になります。

夜尿症を考えるうえで最も大事なことは、「夜尿は患児や保護者のせいではない」ということです。しかし、夜尿を治すためには患児自身が行動することが必要であり、これもまた重要なことになります。

排泄行動の適正化

昼間におしっこが漏れる昼間尿失禁/遺尿症でもそうですが、排便のコントロールをきっちり行っておくことは大事です。便秘で腸の中に便がたまっていると、便が後ろから膀胱を圧排しておしっこを溜めにくくなってしまいます。

また便座に座って用を足す場合は足がしっかり着地するよう台などで調整する必要があります。

 

水分摂取

就寝前の水分制限で夜間の尿総量が減るという報告があることから、一般的には就寝の少なくとも23時間前には夕食と最終水分摂取を済ませた方がよいとされています。それ以降でどうしても喉が渇く場合は、小さな氷をなめて紛らわせるのがよいようです。

逆に昼間は積極的に水分摂取を行った方がいいです。昼間に十分に水分を摂取しないと夜間の水分摂取量を多くする可能性があり、夜間尿量の抑制が難しくなります。

摂取すべき水分量を示します。

 

1日最低必要水分量.png

 

食事が3食しっかり摂れていると仮定すると、この1日の最低必要水分量のうち40%は食事由来とされているので、残りの60%を飲水として摂取する必要があることになります。夕食時の水分摂取なども考えると、この60%の摂取水分量のうち8割を朝から夕方16時までに摂取するのが目標です。

日中の学校で過ごす時間も積極的に水分摂取を行うことが望まれますが、最近は脱水予防目的で水筒の持参を認めている小学校も多く、比較的摂取がしやすいと思います。

 

30kg.png

 

 

食事摂取

おしっこと関連する気を付けるべきものは、塩分・カフェイン・カルシウムです。

特に塩分は抗利尿ホルモン薬の効果を下げますので要注意です。スナック菓子なども食べ過ぎないように注意しましょう。

カフェインはコーヒー・紅茶・緑茶のほかにソフトドリンクに含まれていることもあります。

カルシウムも夜間多尿の原因になりますので、夕方以降の牛乳や乳製品の摂取は避けた方が無難です。

 

薬物療法

夜尿症の薬物療法には、夜間の尿量を減らす抗利尿ホルモン薬、膀胱の容量を増やす抗コリン薬、尿意による覚醒を促す(眠りを浅くする)三環系抗うつ薬があります。

 

抗利尿ホルモン薬

夜間の尿生成量の増加に効きます。

夜尿症患児では夜間の抗利尿ホルモンの分泌が低下し多尿となっているので、この不足した抗利尿ホルモンを外から補ってやろうという治療です。デスモプレシンという腎臓に選択的に働きかけて尿量を減らしてくれる抗利尿ホルモンの誘導体を用います。2003年に点鼻の薬が使用開始となり、2012年からは現在主流になっている口腔内崩壊錠が登場しました。大変効果的な薬(有効率70%)で夜尿症治療の第一選択薬となっていますが、「水中毒」という副作用があります。水中毒とは体内への水分貯留による低ナトリウム血症、頭痛、嘔気、嘔吐、けいれんなどをきたす状態です。このため抗利尿ホルモンによる治療を行う場合は、水中毒予防のため、投薬の2時間前までには夕食を済ませ、夕食後から翌朝までの水分摂取は200mL以下に抑える必要があります。

口腔内崩壊錠(OD錠)の注意事項としては、OD錠は舌下に投与して口腔粘膜から吸収させる薬剤ですので、服薬後すぐの飲水や口をゆすぐ行為(歯磨き)は控えるようにしましょう。

 

抗コリン薬

夜間の畜尿能力の低下に効きます。

夜尿症患児では膀胱の過活動によって、おしっこを溜められなくなっているので、この過剰な膀胱の収縮を抑えてやろうという治療です。膀胱の筋肉の中には膀胱を収縮させる受容体(コリン作動性受容体の一つであるムスカリン受容体のサブタイプM3受容体、まったく覚える必要はありません、、、)があり、抗コリン薬はその受容体に結合して膀胱が収縮するのをブロックします。その結果、膀胱を弛緩させて尿を溜められるようにします。抗コリン薬は抗利尿ホルモン薬が無効の時に使う第二選択薬で、抗利尿ホルモン薬と併用することが多いです。有効率は40%ほどです。

ムスカリン受容体は全身に分布しているため、副作用として喉の渇き、便秘、羞明などを生じることがあります。特に便秘は、夜尿症コントロールにおいて阻害因子となりますので、適切な排便管理が必要になります。

 

三環系抗うつ薬

その名の通り、本来はうつ病の治療薬ですが、古くから夜尿症の治療薬として使用されてきました。

覚醒に働くホルモンを誘導して、夜間に尿がたまってきたときに尿意覚醒を促してトイレに行かせようという治療です。

セロトニンやノルアドレナリンという覚醒に働くホルモンを増加させます。その他にも抗利尿ホルモン分泌作用や抗コリン作用も併せ持っています。

じゃあこれ1剤でいいじゃない、となりそうですが悪性症候群という強い副作用や過量投与による心毒性があります。重篤な副作用があるため、夜尿症の治療を専門にしている医師による処方が望ましいと思います。

夜尿 治療薬.png

 

 

アラーム療法

夜尿アラームは、夜尿時に尿を感知するとセンサーが作動して警報が鳴る装置です。

アラーム療法の作用機序はいまだ完全に解明されているわけではありませんが、①抗利尿ホルモン分泌増加による夜間尿量減少、②睡眠中の機能的膀胱容量の増加による尿保持力の増大が報告されています。

 

アラーム療法では以下のような装置を使います。

 

アラーム写真2.png

 

写真は有線型ですが、無線型のものもあります。

アラーム療法は日本では保険診療として認められていませんので、自費で装置を準備する必要があります。

 

アラーム療法の長所短所をまとめました。

 

アラーム長所短所.png

 

アラーム療法は効果が出始めるのに1か月以上かかります。どっしり腰を据えて取り掛かる気持ちが大切です。

最初のうちはアラームが鳴ってもきっと本人は起きません。家族が横に寝てアラームが鳴った時に子供を起こしてもらう必要があります。そのため、家族の方が睡眠不足になる可能性もあります(これがアラーム療法を継続できない大きな原因となります)。

治療は最低3か月間継続し、14日間連続で夜尿が消失するまで続けます。

 

今までに世界中から報告されてきた数多くの夜尿症に関する研究結果をまとめたデータによると、アラーム療法はコントロール群や無治療群と比べると1週間の夜尿日数を2.68日減少させるとされています。また14日間連続で夜尿が無い日を達成する率は7.23倍、治療後に再発しない可能性は9.67倍になったと報告されています。

一方でアラーム音の大小や、音声アラームか振動アラームかの違いは治療成績に影響を及ぼさなかったようです。

またアラーム療法と抗利尿ホルモン薬内服を比べた場合、その2つの優劣は分かりませんが、アラーム療法に抗利尿ホルモン薬内服を併用すると、抗利尿ホルモン薬単独の治療よりも効果的であったと報告されています。

 

保険が効かず、治療効果発現まで時間がかかりますが、しっかり継続できれば再発も少なく治療選択肢として十分考慮に値すると思います。

 

 

 

まとめ

夜尿症に関して治療を中心に説明してきました。

昼間にしっかり水分を摂取すること、塩分摂取を控えることが大切です。

治療は抗利尿ホルモン薬の内服を中心に、アラーム療法を組み合わせていくのがいいかと思います。

体の成長発達に伴って改善していくことがほとんどですので、焦らず一緒に頑張っていきましょう。

 

 

改めて夜尿症に関して勉強しなおすと、自分が誤った認識をしていたことにも気づきました(恥ずかしながらアラーム療法に関しては、短所の家族の睡眠不足のことだけを考えていて、あまりいい治療法ではないと思っていました)。定期的に勉強しなおすことの大切さを改めて感じました。

今回得た新しい知識をこれからの夜尿症診療にフィードバックしていきたいと思います。

 

さらに詳しく知りたい方は、こちらもご参照ください。

 

 

参考文献

ネルソン小児科学 第19版
夜尿症診療ガイドライン2021
日本小児泌尿器科学会
小児科 Vol.63(1);2022:83-89
チャイルドヘルス Vol.25(5);2022:344-347,348-351,352-355
Cochrane Database Syst Rev. 2020 May 4;5(5):CD002911