- アレルギー
- 2024.03.01
乳・鶏卵アレルギーの進め方に光明?~安全性と有効性を兼ね備えた新しい方法~
はじめに
食物アレルギーがある子供にいかに安全にアレルゲンを摂取させていくか、そしていかに寛解(除去することなく自由に好きなだけ食べられること)に導くか、というのは全ての食物アレルギーに関係する人々の究極の命題と言えると思います。
今も世界中で、たくさんの研究者がその命題の答えを見つけようと日々努力をされています。
そんな中、今年の1月に東京にある国立成育医療センターから1つの解答が出されました。
今回はその内容を見ていきましょう。
掲載雑誌はClinical & Experimental Allergyというイギリスアレルギー・臨床免疫学会の公式ジャーナルです。
Clin Exp Allergy. 2023 Dec;53(12):1307-1309
先日のブログで免疫療法について少しお話をしました。
現在、食物アレルギー診療において経口免疫療法という手法が臨床研究として盛んに行われています。
現在主流になっているのは緩徐免疫療法(slow oral immunotherapy ; sOIT)という方法で、一番最初に経口負荷試験を行って閾値(症状が出ないギリギリの摂取量)を確認したのち、自宅で時間をかけながらゆっくり(半年~1年ぐらいかけながら)摂取量を増量していくというものです。以前に行われていた急速法(rush OIT ; 1日の中で複数回摂取を行い、2~4か月程度の短期間で摂取量をあげていく方法)に比べると安全性は上がりましたが、それでも時折アナフィラキシーといった強いアレルギー症状が見られます。
方法
今回の研究は、従来のsOITに工夫をすることで安全性や有効性がどうなるのかを見たものです。
研究では鶏卵アレルギーもしくは乳アレルギーのある子ども(4歳~18歳)をA~Eの5群に分類して、それぞれの方法の安全性と有効性を調べました。
A~Eの各群の詳細は以下の通りです。
A群:super ultra-low dose、閾値の1/10000で開始、閾値の1/10で維持
B群:ultra-low dose、閾値の1/100で開始、閾値の1/10で維持
C群:low dose、閾値の1/10で開始、閾値の1/10で維持
D群:従来型、ほぼ閾値で開始、閾値以上に増量
E群:除去群
以下、各群の摂取イメージ図です。
結果
では結果を見ていきましょう。
まず各群のOIT後、食べられる量が増加した人の割合です。
まず一番に目に入るのが、やはり食べておかないと閾値の上昇は望めないなということです(E群が完全除去した群)。この研究結果からも、完全除去は将来的な耐性獲得を目指すうえで不利益ということが分かります。
次にグラフを見るとB群(閾値の1/100量で開始し、漸増して最終的に閾値の1/10量で維持した群)で最も食べられる量が増加した人の割合が多かったことが分かります。また従来法に比べ、閾値よりも少ない量で開始して維持する方法の方が、食べられる量が増加した人の割合が多いという結果でした。(A~C群 vs D群)
次に研究中に有害事象を経験した人の割合です。
B群で最も有害事象を経験した人の割合が少なくなっています。
特筆すべきは、従来法(D群)ではアナフィラキシーを起こす人がいたのに対し、閾値よりも少ない量で開始した群(A~C群)では誰もアナフィラキシーを起こさなかったという点です。
考察
ここまでをまとめると、鶏卵や乳のアレルギーがあって将来的に食べられるようになることを目指す場合、「現在ぎりぎり食べられる量(閾値)よりもかなり少ない量から開始してゆっくり増量、そして閾値よりも少ない量でしばらく維持、その後負荷試験で閾値が上昇しているかを確認する」というやり方が最も効果的で、なおかつ安全な方法ということになります。
これまでは、食べられる量を増やしていくには閾値ギリギリの摂取を継続していく必要があると考えていましたが、少なくとも鶏卵や乳のアレルギーがある小児においては微量のアレルゲン摂取で十分なのかもしれません。
もしかしたら今回の研究によって、「安全性を担保しつつ、最大限の効果を得る」という正に理想の方法が発見されたのかもしれません。
閾値よりも少ない量で摂取を行いますので、比較的重症なアレルギー児でも継続が可能と考えられます。
感想
自宅で摂取する際に最も大切なことは安全に摂取できることだと思います。そのためには負荷試験で確認された閾値の範囲内で摂取することが大切です。
個人的には、現在日本で行われている経口免疫療法の方法は、安全性が十分に担保できていないと考えています。
(参考までに標準的なOITの方法:経口負荷試験で閾値を確認後、数週間ごとに摂取量を120~150%ずつ増量、増量のタイミングで負荷試験は行わない)
そういった観点からも、今回の研究から得られた結果は非常に有益なものと考えます。
もちろん、今回の研究から得られた結果がすぐに全ての食物アレルギーに適応できるわけではありません。
小規模で不均一な集団を対象としており、各群での免疫療法の進め方も統一されていませんでした。従って研究の質としては決して高いとは言えません。今後も研究を進めて、今回得られた結果のメカニズムの解明や、方法を標準化していくという作業が必要かと思います。
とはいえ、繰り返しになりますが、今回の研究で得られた結果は実に有益で興味深いものであると思います。
特に閾値より少ない量で開始して維持するという方法は、今までの自分の中の常識を覆すものであり、改めて人間が持つ免疫機構の奥深さを感じることができました。
(なんで閾値ギリギリを攻めるより、ずっと少ない量で開始して維持した方が、食べられる量が増えるんやろ?どんなメカニズムが働いて、今回の結果になってるんやろ?など色々な疑問が湧いてきます。)
新しく得た知見を日々の診療に還元していけるよう、これからも勉強を続けたいと思います。
原著論文
Effectiveness and safety of low-dose oral immunotherapy protocols in paediatric milk and egg allergy
Clin Exp Allergy. 2023 Dec;53(12):1307-1309
Y. Miyaji et al.